TOEIC850の日本人エンジニアがアメリカに海外赴任するとどうなるのか?
「そんな装備(英語力)で大丈夫か?」
米国への赴任前、よくこう自問自答をしていた。
赴任前のTOEICの平均スコアは約850(現在は935まで上がった)。
あるサイト(https://mysuki.jp/toeic-level-809)によると、「すぐにでも海外出張や赴任レベルとなります」らしい。
「そうか、大丈夫なのか」と何も考えず信じ切った私は、大した英語の勉強をせずに渡航(※1)。その結果を報告する。
渡航前の自分が問いかけてきたらこう言いたい。
大問題だっ!
1.会議
TOEICはマーク式のテストなので、850点のレベルだとリスニングの2割ほどは理解できていないことを意味する。通常の会話よりも、ゆっくり、明瞭に発音しているリスニング音声でこの状態な訳なので、実際の会議についていくのはかなりきつい。
赴任直後の状況を具体的に言うと、
・F2Fの会議で何をテーマに話しているかは分かる
・決定事項もある程度は分かるが、なぜそういった結論に至ったかは分からないことが多い
・自分にされる質問に対して、3、4回に一回は「Sorry ?」とか「Could you say it again ?」と聞き返す
・電話会議だと、こちらに対する質問に気づかないことがある
・会議でなんらかの発表をする際は、発表前に20分ほどかけて、喋る内容を頭の中で整理する必要がある
2.一対一の技術ディスカッション
自分は、職場のメンター的なポジションの方と、週一ほどで開発内容のミーティングしていた。
・明瞭な指示や相手のいっている方向性は分かる
・細かな部分に関しては齟齬が発生することも多いので、後で改めて質問することがしばしばある。慣れないフレーズが多いので、テンパることも多い。"spawn containers(※2)"と言われ、何度か聞き返したことがある
・こちらのスピーキング能力がないため、自分が質問→相手が説明、という一方向のコミュニケーションになりがち。また、こちらが喋る時も論理的に組み立てられていないため、つたわらない(It does not make senseとにべなく言われる)
3.ランチタイムなどでの日常会話
・会話の3割くらいは理解できるが、ジョーク等はきつい
・自分が発言すると、場の会話進行を阻害する気がするので話せない
結論
日本人の理系人材(研究者やエンジニア)が海外に行く際、英語ができなくても「技術があれば問題ない」「研究能力があれば問題ない」という意識があるのではないかと思う。少なくとも自分にはあった。
しかし、研究や開発は技術や研究能力のみで進めていけるものではない。スタートする前には、5W1Hを周囲に論理立てて説明、場合によっては説得する必要がある。なぜこの箇所を開発するのか、なぜプランAではなくBをとるのか、スケジュールは…etc..
スピーキングだけでなく、トラブルシューティングの時には相手の論理を理解するリスニングスキルも必須である。
上記の要求を満たすのに、TOEIC 850レベルだとかなり厳しい、というのが自分の感想だった。日系企業の海外支店等、日本語話者が多い職場ではまた違うのかもしれない。しばしば「TOEICが低くてもやっていけた」という話がしばしばネットには書かれているが、残念ながら自分には想像できない。
これから英語圏に海外赴任に行かれる方は、TOEICのリスニングセクション9割超え+αを目標、およびスピーキングの訓練を積んでから渡航されることをオススメしたい。
(※ 1)正確に言えば、ボキャビルとリスニングの訓練はそこそこにしていた。「スピーキングは行けばなんとかなるやろ」と舐めていたのが非常にまずかった。
(※ 2) spawnは産卵すると言う意味だが、複数のコンテナ等を立ち上げる時にこのように言うことがある